157.「あすも天女になって風を吹かせてくれ!」

  1. 朝飯前の朝飯

「あすも天女になって風を吹かせてくれ!」

 妻が逝き、わが家はわたしがすべての家事・育児を担当するワンオペだ。

 平日に会社ではできないことが溜まれば有給休暇を取得して対応したければならない。

 この日は全日本リトルリーグ野球選手権大会準決勝の前日でやることが目白おしだ。

 朝イチで生保会社へ行くと、「おくさんの死亡診断書が不備です」と言われたので再度千葉大病院緩和科へ向かい、大里綜合管理へ寄って家に帰ると、三男が昼食を済まして待っている。

 顔を合わせるなり「早く野球のグラウンドへ行こう!」と催促する。

 わたしは「食べる時間をくれ」と言ってハッシュドビーフを皿に盛ってかけ込む。

 喜多グラウンドには12時55分着。

 雨模様だったので若田父に「中止になったら三男を預かってもらえませんか? これから新横浜の病院へ最後の支払いと岡山県に住む老父母の迎えがあるので行ってきます」と言ってお願いする。

 新幹線で上京している母の携帯電話に「今回は新横浜駅で降りるように」と再メール。

 湾岸道路を走り、新横浜に近づくと、瀬田クリニック新横浜へ電話し「請求書の支払いに行きます。早めにご対応ください」と用件を伝えると、事務の女性が「ちょっと待ってください」、今度は看護師も「ちょっと待ってください」と言って待たせる。

 瀬田クリニック新横浜へ着くと「妻が亡くなりました」と言って代金二百数十万円を支払っても、受付の女性から「ご愁傷さまでした」のひとこともなければ、金尾亨院長も診察室にいながらでてこない。

 わたしは「このクリニックは免疫細胞で人助けの先進医療をうたいつつ営利追求が第一なのかなー。少し時間がかかっても本家の瀬田クリニック東京にすればよかったかな?」と残念な気持ちになる。

 両親が新横浜駅へ着くまでには多少時間があるので以前給油したガソリンスタンドへ直行し、ガソリン満タン後、洗車とオイル交換もたのむ。

 重田父に電話すると、「野球の終わりは17時前後だろう」とのこと。

 給油・オイル交換・洗車が終わると新横浜駅へ向かい、母に「西口で待っているように」と連絡。

 駅送迎場所へはいり、ようやく両親を見つける。

 この駅で送迎したことがなく30分はロスしただろうか?

 焦ってスピードを出して運転すると、父が「急がなくてもいい! 車線を変更するな!」とうるさい。

 母が「おとうさんもかなり車線変更されますよ」と助け船を出すと、父は黙る。

 なお、母が「グラウンドへなにか差し入れをしたほうがいいのでは?」と尋ねるので、ローソンへ寄ってスポーツドリンクを全選手分購入する。

 喜多グラウンドへ17時に着きドリンクを渡す。

 大倉くんのお爺さんも赤飯を持参してくれたそうだ。

 三男を連れて帰るさい、ある母親から「きょうはおじいちゃんの家?」と尋ねられる。

 その家は祖父母が千葉県内に住んでいるのだろう。

 三男が「おなかが空いた」と言い、父も「わしも食べられる」と応じるので、いったん帰宅し三男を着替えさせ、回転寿司の銚子丸へ行く。

 主役の三男はどんどん注文したり回転している皿に手を伸ばす。

 父も皿を次々と手元へ引き寄せ1個食べては残りを「食べろよ」と言って母に渡す。

 母は文句も言わずに食べているので、わたしが「あまりに自主性、主体性がないなー」と言うと、「わたしはもういい。つみれ汁を頼んでほしい」と。

 一同満腹で会計を頼むと、両親が合計金額に「高いなー」と言って目を丸くする。

 帰宅後、三男の野球のユニフォームを洗濯。

 三男に「早く寝るように」と言って一度は寝たものの再度水を飲みに起きてきて「暑い」と。

 大会を前に緊張しているようだ。

 わたしは妻の祭壇に「あすも江戸川区球場だ! 天女になって舞い降り、そして風を吹かせてくれ!」と語りかけた。

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