146.「会社へ行きゃあええ! 三男の面倒も見る!」

  1. 朝飯前の朝飯

「会社へ行きゃあええ! 三男の面倒も見る!」

 妻の逝去に伴い、5日間の忌引き休暇と有給休暇をもらう。

 数日はなにもすることができずに、ただぼーっとしていた。

 長女は大阪の会社へ復職し、長男は静岡の大学、次男は北海道の高校へと戻っていった。

 家には三男と母とわたしの3人だ。

 土曜のフォーラムのさい、大里綜合管理に葬儀の受付で世話になったので挨拶をかねて顔をだし、香典の中から赤字運営のフォーラムへ十万円寄付した。

 講演料・交通費が高額な講師を、わたしが招聘したということもある。

 なお、通信制高校の台頭で入学者の減少に苦しむ奥星余市高校にも同額を送金した。

    幅内和生校長(当時)からは「ありがたく頂戴します。有効に活用させていただきます」とのことだった。

 日曜には母から「香典返しを忘れんうちにしたほうがいい」と助言され、わたしは妻の祖母の法事を思いだした。

 第十二代横綱陣幕九五郎やその師匠初汐久五郎の墓があり、村上海賊などとゆかりがある広島県尾道市の古刹(こさつ)で行なった。


 そのとき立ち寄った創業百年の桂馬商店の蒲鉾は、あまりに絶品で店員の対応もすごくよかった。

「日本で唯一、瀬戸内の魚での自家製生すり身100%で、化学調味料不使用・保存料無添加」と言われた記憶も鮮明だ。

 義祖母、義父、妻の三代が愛した蒲鉾を香典返しにすれば妻も草葉のかげできっと喜んでくれるだろうと思い、インターネットで夏用の磯だよりや磯すだれなどを注文した。

 母に会社への出勤について尋ねると、うれしいことばがかえってきた。

「月曜から行こうと思う。こっちへいてくれるあいだ、三男の面倒を見てくれんじゃろうか?」

「もちろん会社へ行きゃあええ! 三男の面倒も見るよ!」

「ありがとう」

 わたしは月曜から出社し、母がいてくれるあいだ、なにもなかったようにがむしゃらに仕事に打ち込む生活へもどる。

 何人かから「ご愁傷様です」「通夜はすごい列席者でしたね。おくさん、みんなから慕われていたんですね」「これから子育てどうするのですか?」といって声をかけられた。

 元同僚の村岡繁雄氏からは強烈な苦情の電話をもらう。

「おい、おくさんが亡くなったことをなんでおれに知らせてこないんだ」

「連絡しなくてごめん。でも妻が亡くなった日に娘が行方不明で大変だったんだ。夕方にようやく見つかって、葬儀社からは『あすが通夜で、あさってが告別式です』と言われて日曜だったので親と近所だけに知らせた。月曜の、通夜の日の朝に連絡したのは、会社と学校だけだよ。当然、漏れがあったと思っている」

「おまえのおくさんとこのまえ話したし、家に泊めてもらったこともあるから、おれは別格だと思っていた。はっきり言って水くさい!」

「本当に申し訳ないと思っていますよ」

 会社で残業しているときや家の寝室に入ったときなどは「ひとり」を意識して無性にさみしくなる。

 ふと妻の名前を呼んでも、部屋はシーンと静まりかえっているだけで、返事がなかった。

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