129.「てんきもあたまの中もすっきり!!」

  1. 朝飯前の朝飯

「てんきもあたまの中もすっきり!!」

 妻がごそごそ起きだして、わたしの布団をかけてくれたので目が覚めて、朝からうれしい会話をする。


「きょうは6月2日だね」

「そうだよ。日にちがわかるようになったんだ!」

「トイレもいままでと違ってひとりでに行ける。生きている実感がある! 地に足が着いている!」


「ガンマナイフ(放射線治療装置)治療を試してよかったなー」

「ただ、数字はいつになったらとりもどせるのだろう」

「ちょっと言ってごらん」

「うちの電話番号はゼロ・ヨン・ナナ・ゴ・ナナ・二の……」

「すごい、言えるじゃん」

 妻は6時すぎに点滴を行なうと熟睡した。

 逆にわたしは目が覚めたので、きのうの出来事を日記にまとめる。

 8時すぎに長野治医師の回診で妻との会話になる。

「おくさん、調子はどうですか?」

「頭がすっきりしました。視覚も広がったようです」

 わたしが割って入る。

「3回目を終えると、いまよりももっとはっきりするのですよね」

「今度入院するころはもっとクリアしているだろうし、3回終えると全然違いますよ。ところで、鍵は見つかりましたか?」


 看護師さんが入室してきてビニール袋を渡してくれた。

「ガンマナイフの病室のブラインド奥にありましたよ。これじゃないですか?」


「それです。それです。ありがとうございます」

 長女の携帯と家の電話に何度電話してもつながらない。9時前にようやく連絡がある。


「三男を送り出して二度寝した。携帯の充電切れだったので気づかなかった」

 9時半、5階の看護師さんから声をかけられる。

「請求金額が出ました。28万円です。1階の会計で支払ってください」

「わかりました」

 わたしは荷物を持って1階の会計でクレジットカード払いをした後、車で千葉大病院へ向かう。


 妻を病室のベッドへ寝かせて長女と交代する。

 会社へ14時半に着くと、岩野清志専務が怖ろしい顔でこちらを向いたあと柱時計に目をやっている。

 以前も「14時を過ぎたら休め」と言われていたが、「当分、遅刻や早退をさせていただくかもしれません」とも伝えている。

 17時に長女から連絡がある。

「千葉大病院の緩和科が空いた」

「まかせる。よろしくたのむ」

 19時、岩野専務から声をかけられる。

「おくさんのガンマナイフは成功したらしいな。早く帰ろよ」

「ありがとうございます。しかしそれだと仕事が前に進まないので遅刻と残業を許容してください」


 その日は22時まで残業して、豊岡幸弘課長と一緒に会社の戸締りをして退出する。


 その道々で情報を得る。

「月曜の朝礼はどうだった?」

「岩野専務が『売上げが厳しいが、悲観的にも楽観的にもならないで地道に取り組もう』と言われました」


「加藤佳寿夫専務の時代は売上げ予算の達成にもっと貪欲だったよな」

「たしかにみんなをやる気にするようにはたらきかけられていましたね」

 市ヶ谷駅のコンビニでにぎりめしとパンを買って電車に乗り、千葉駅からタクシーで千葉大病院へ着く。


 妻はよく寝ている。

 奥星余市高校PTAの木田母に「次男が謹慎になりました」とメールする。

 妻の日記はあいかわらずひらがな中心だが、すっきり感が伝わってくる。


    (循環器病センターを)たいいん
 てんきはれ!!
 とてもいい天気だ
 あたまの中もすっきり
 てんきもあたまの中もすっきり!!
 ちば大へかえる
 すっきり
 ちばけんさんぶぐんおおあみしらさとまち
 ガンバナイフ
 1回目終了
 せいこう!!
 あたますっきりうれしい
 (夫泊)

(つづく)※リブログ、リツイート歓迎

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