92.医者目線「No,but」と患者目線「Yes,but」

  1. 朝飯前の朝飯

医者目線「No,but」と患者目線「Yes,but」

 三男は小学校の卒業式を終え、きょうから中学校入学まで春休みだ。

「入学前祝いで自転車を買ってやる」を餌に起こして、カインズホーム茂原店へ行く。

 どれにするか迷うが、ステンレス製で錆びない国産のブリヂストンにした。

 道中、熱戦が繰り広げられるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で盛り上がったあと、女性の話になる。

 三男が「おとうさん、これまで何人からコクられた(告白された)?」と訊くので「4、5人かな?」と答えると、「ぼくのほうが多い!」とのたまう。

 小学生のくせに生意気だ。

 三男にコクるのは明るい子よりも暗い子が多く、なかにはリストカットしたり保健室待機児もいたらしい。

 三男にはそんな暗さはみじんもないので、ひとは自分にないものをもっている人間に惹かれるのかもしれない。

   あるいはひとは、自分はともかく相手に明るさを求めているのだろうか?

 外房有料道路を通って、千葉大病院には11時に着く。

 部屋を片づけて、ナースステーションで礼を言い、1階の会計で278,500円をカード決済する。

 妻に薬を渡すと、プリンペラン錠(吐き気留め)だけでなく、リン酸コデイン散、マグミット錠、セルベックスカプセルが足りないとのこと。

 薬剤師にその旨伝えると、再度入院病棟へ行くように言われ、踵を返す。

 妻の体調は抗ガン剤投与の直後にきついがしばらくすると元気になる。

 退院1週間後、妻と春休みの三男を連れて千葉大病院の外来へ向かう。

「白血球の値が下がっていれば即入院」と言われていたが大丈夫だ。

 きょうの採血では肝臓の数値が改善している。

 若い医師から「きのう体調をくずした稲澤万里医師と話しました」といって次回の投与日を伝えられる。

 その後、妻と若い医師が会話する。

「抗ガン剤が以前よりも強くなっているのでもっと間隔をあけられませんか? 体調が戻ってから実施したいです」

「それは難しいです。ドクターみんなで話し合って決めたことですから」

 患者の意思が全面的にはねつけられるというのはどういうことだろう?

 若い医師には、病院の上司目線の「No,but」でなく患者目線の「Yes,but」で受け答えしてくれれば妻もいくらか納得するのにと残念に思う。

 次回の予約を4月3日9時に入れて、皮膚科をあとにする。

 会計に妻が並んだので「おれが払うよ。椅子に座っといて」と声をかける。

 帰宅後、田川医師からメールが届いていたのでやりとりする。

「あれから奥さんの胸の痛みはどうですか? 千葉大へ行くそうですが、血液検査の、特に白血球の値を教えてください。何かあれば連絡ください」

「ご心配いただき感謝します。脇腹痛は収まったようです。妻も田川先生のお言葉にずいぶん安心していました。白血球の値、わかり次第報告します」

 13年前もいまも田川医師は、患者の意向をできる限り尊重し、優しいことばをかけてくださる。

 クリニック開業で成功するのは専門知識やスキルに加えて「Yes,but」「Yes,so」の医師だろうと思った。

(つづく)※リブログ、リツイート歓迎

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